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 そう、愛想はないといって過言(かごん)ではないけれど、彼の微笑はとても美しい。美形ではないからこそ、美しいと感じるのが不思議に思えるほど。
 愛想がいまいちという点に関しては、猫につれなくされても怒るひとなんていないでしょ、という感じだ。
 ――なんか猫っぽいんだよねぇ。
 ものすごく偏見(へんけん)で申し訳ないのだけど、すごく気まぐれな気がする。もちろん、見たことがあるわけではない。
 バーコードを読み取って清算。の、前に確認する、会員カード。
 当然のように持っている。
 花屋の会員カードを持っている高校生の男の子って、全国でどれくらいいるのだろう。意外と多かったりするのだろうか。
「久我くんって、よく花買ってくよねえ」
「はい。ありがとうございます」
 ありがとうと言いながら、新聞紙でくるくる包んで自分でお持ち帰りの準備を整えている。
「部屋に飾ってるの?」
 どんな部屋かなんて知っているわけもないけど、もしそうならなんだかかわいい。ピンクのガーベラを一輪、なんて。
 微笑ましいなあなんて思っていたら、久我くんはやっぱりしれっとした顔で否定した。
「いいえ」
「……」
 ――うん。会話しよう?
「久我くん。そこは、何々してるんですよって会話を広げていくとこじゃない?」
「そうでしたか。すみません」
 言葉が足りないのがここにもいたか。
「飾ってるんじゃないんならどうしてるの? あ、や、答えたくないなら答えないでいいよ」
 仕方がないので私から水を向ける。見つめ合っていてもどうしようもない。大体、私が見つめ合いたいのは、働き者のボランティアの男子高校生ではないのだ。
 そういえば、久我くんには恋人がいるのだろうか。
 ――いない、かなあ。
 高校生だし、恋人がいたら週末に長期的なボランティアはしない気がする。アルバイトなら話は違ってきそうなものだけれど。
 社会人だって距離と時間に負ける場合が多いのだ。高校生がそんなに簡単に耐えられるとは思えない。
「贈り物です」
 久我くんはあっさり言った。
「は? 花?」
「はい」
「いや、よく買ってく花の話だよ?」
「そうですよ」
 レジのカウンターを挟んでふたり、なんだか会話が()み合っていない。
「……そんな頻繁(ひんぱん)に贈り物してるの?」
 しかも花一輪。
「おかしいですか?」
「おかしいとは言わないけど、珍しい気はするね」
 そんな、フランスやイタリアじゃないんだから。
 もちろん行ったことはない。私の勝手なイメージだ。
 久我くんは相変わらず、一体何を考えているのやらわからない表情だ。無表情とは違うものの、喜怒哀楽のどれにも当てはまらない。
「贈るでしょう。花一輪くらい。(そば)にあるんですから」
「くらいって……」
 ――あ。
 そうか。
 非難しかけて気づいた。
 悪い意味じゃないんだ。
 たかが一輪くらい、じゃなくて、すごく好きだからせめて一輪くらい、だ。きっと。
「贈りませんか? 誕生日だとか、何かの記念日じゃなくても。たとえば落ち込んでいたりしたら」
 誕生日。
 久我くんにはなんの責任もない。わかっはているけれど、なんだか思い出させられたみたいな気持ちになった。
 私は中途半端に腰を(かが)めると、カウンターにだらしなく肘をつき、背の高い久我くんを上目遣いで見上げた。久我くんはいつも姿勢がいい。
「相手、落ち込んでるの?」
「いいえ。毎日楽しそうです」
 じゃあなんで買ってくのよ。
 ……傍にあるからか。そう言ったばかりだ。
 なんだかおもしろくない。
 だって、それってつまり、ただ贈りたいからってことじゃない?
 喜んでほしいとか、似合うと思ったからとか、そういう純粋な愛情から来る気持ちのように思う。
 贅沢の神髄(しんずい)は、消えものに使うところにあるのだ。
 生花なんて(しお)れる運命にあるものにお金をかけるなんて。
 しかも、それが贈り物だなんて。
 私は唇を(とが)らせた。
「好きな子?」
「……………………………………ええ、まあ」
「なに今のすごい間は」
 しかも目を()らした。
「その子、花、喜んでくれる?」
「はい。とても」
 そこは間髪(かんはつ)()れずに肯定するのか。
 やっぱりおもしろくない。
「彼女?」
「はい。女性です」
「いやそうじゃなくて」
「少々説明しづらい関係なんです」
「まさか悪いことしてないよね?」
「健全です」
「ほんとかよ……」
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