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 ――やめた。
 言葉にすると、それでしかなくなってしまう気がした。
「……呼んでみただけ」
 雅がきょとんとする。黒い(まつげ)をぱちぱちさせて、それから「へんなひと」と笑った。
 小さな薔薇の花がちらちらと揺れている。
 それはきっと、花に水を注ぐようなもの。
 雅が(わら)うことで、博は十分(むく)われるのだ。雅にそれが伝わればいい。やわらかく彼女に伝えることができれば。
 雅は本来、結婚するタイプではないのだろう。愛を語ることはあっても、誓うことはない人間なのだろうと、ほんの少しの寂しさとともに思う。
 それでも、雅は博に誓ってくれた。ともに()ってくれる。
 信じてくれている。
 博はわかっている。雅が本当に大切にしているのは、博との関係だ。もちろん博自身も大切にしてくれてはいるけれど、本当に大切なのは。
 ――結ばれてる。
 それだけでいい。博はそのたったひとつで幸福であれる。
 ――それは、花に水を注ぐようなもの。
 もう一度目を伏せて、深く息をつく。語ることを不得手(ふえて)とする博は、誓うように想った。
 花には水を注ぐように。

 ――あなたには、愛を。






end.
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